仕事柄、日本の様々な出版社の英語の教科書を読む機会があり、毎回とても不思議に感じることがあります。それは、英語で買い物をするという場面で登場するお金がyen(円)であることです。例えば、アメリカで買い物をする際にyenで支払いをする人はいません。yenという通貨単位を使って買い物をする場面は必然的に日本ということになります。日本の地でyenと英語を使ってお買い物とは「一体それはニホンのドコのナニを商ってる店なのか?」といつも不思議に思っています。そこは素直に、日本人がアメリカを旅行し、そこで英語を使って買い物をするという場面にすれば何の不思議もない訳です。そうであれば、必然的に使用する貨幣はdollar(ドル)ということになります。
このような諸々の事情があるので日本の学生の皆さんはyenという通貨単位とdollarという通貨単位を同じ場面で同時に見るという機会が少ないようです。

I’d like to exchange Japanese yen into dollars.
日本円をドルに両替したいのですが。

Certainly.
かしこまりました

How many dollars is 10000 yen?
10000円は何ドルですか?

That’ll be 100 dollars.
100ドルになります

dollarは複数である100に反応してdollarsと複数形になっています。
一方、yenは10000に反応せずにそのままyenになっています。
解説
円は「yen」と英語表記されても「えん」と発音し、日本語です。一方、dollar「ダラー」は英語であり、日本語だと「ドル」と表現します。
日本語では1ドルであっても10ドルであってもドルはドルと表現し、10ドルズ、ましてや10ドル達とは言いません。つまり、日本語は名詞に対して単数・複数のこだわりが薄いということになります。

yenやdollarのような通貨単位は国旗や国歌と同様、その国を代表するものの1つです。

国際社会には国旗や国歌のようなその国を代表するものには敬意を表するという基本的なマナーが存在しています。

例えば、 国旗は国の象徴であり、他国の国旗もぞんざいに扱ってはいけません。他国の国歌が歌われている際も敬意を表するために静粛に聴くのが基本的なマナーであり、騒いだりしてはいけません。世界の多くの国では国旗、国歌をとても大切にし敬意を払うことを幼少期から教育しています。

国際補助語である英語を用いる際の通貨単位の表現方法は、その国の言語感覚を尊重します。

つまり、その国の人々が単数・複数にこだわるか否かで複数形を用いるか否かの対応が決まっているようです。

前談通り、日本人は10ドルであっても10個のりんごであっても10ドル達、りんご達とは言いません。

仮に10 yensといったようにyenを複数形にしてしまうと、アメリカつまり英語を話す国の言語感覚を日本(他国)に押し付けたことになり、国を代表する円という通貨単位に敬意を払ってないことになりかねません。

つまり、英語表記する場合は日本人(日本語)は単数・複数のこだわりが薄いので、日本人のその言語感覚を尊重し、複数の10 yenでも yenを複数形にしない(してはいけない)ということになります。

今回は、yen(円)がdollars(ドル)のように複数形にならない理由でした。

国際補助語である英語を学ぶということは、同時に世界を学ぶということです。